この記事の監修者
さとう皮フ科クリニック 院長 皮膚科専門医 佐藤 由美
都内大学病院での勤務を経て、地域密着型のクリニックを開業。ウェブメディアでの医療情報監修経験も持つ。「患者さんの不安に寄り添う診療」をモットーとする。
夜も眠れないほどのかゆみ、「もしかして疥癬かも…」と不安になり、できれば自力で治したいとお考えではありませんか?
結論から言うと、疥癬の自力での完治は極めて難しく、皮膚科での治療が必須です。この記事は2025年7月10日に更新されました。
この記事では、皮膚科専門医が、なぜ市販薬では治せないのか、そして最も安全で確実な治療法は何かを分かりやすく解説します。読み終えれば、あなたの不安は解消され、今すぐ何をすべきかが明確になります。
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この記事でわかること
- 疥癬かどうかを判断する症状のチェックリスト
- なぜ疥癬は自力で治せないのか、その科学的な理由
- 皮膚科で行う、保険適用の飲み薬・塗り薬による正しい治療法
結論:疥癬の「自力完治」は非推奨。今すぐ皮膚科へ相談を
👉 このパートをまとめると!
疥癬は自己判断で市販薬を使っても治せず、むしろ悪化リスクがあります。感染拡大を防ぐためにも、必ず皮膚科専門医の診断と処方薬による治療が必要です。
「病院へ行くのは面倒だし、できれば自分で治したい」
「人に見られるのが恥ずかしい」
そのお気持ちは、毎日患者さんと接している私もよく分かります。
しかし、皮膚科医の立場からは、疥癬のセルフケアは「危険」だと断言しなくてはなりません。市販のかゆみ止めなどでは原因となるダニは決して死なず、かゆみも治まりません。
それどころか、治療が遅れるほどかゆみは悪化し、無自覚のうちに家族やパートナーなど、あなたの最も大切な人に感染を広げてしまうリスクを高めてしまうのです。
疥癬の治療は、決して恥ずかしいことではありません。正しい知識を持って、迅速に行動することが、あなた自身とあなたの大切な人を守るための最善の方法です。
そのかゆみ、本当に疥癬?症状セルフチェックリスト
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「夜間に強くなる激しいかゆみ」と「指の間や下腹部などに出る赤いブツブツ」が特徴的な症状です。当てはまる場合は、疥癬の可能性を疑いましょう。
まずは、ご自身の症状が疥癬の可能性があるか、以下の3つのサインを確認してみましょう。
これが出たら要注意!疥癬の3大サイン
- 夜、布団に入ると特にひどくなる、耐え難いかゆみ
- 指の間、手首、脇の下、下腹部、太ももの内側などに、赤いブツブツ(丘疹)や水ぶくれ(小水疱)ができている
- よく見ると、皮膚にミミズ腫れのような線(疥癬トンネル)が見えることがある
特に「夜間の激しいかゆみ」は、疥癬を強く疑うべき最も特徴的な症状です。
【写真で見る】疥癬に特徴的な発疹の場所と「疥癬トンネル」
疥癬の発疹は、皮膚の柔らかい場所にできやすい傾向があります。イラストや写真では、特に以下の体の柔らかい部分に赤い発疹が見られることが多いです。
- 指の間
- 手首や肘の内側
- 脇の下
- 下腹部やおへその周り
- 陰部
- 太ももの内側
また、「疥癬トンネル」とは、メスのヒゼンダニが卵を産み付けながら皮膚の角質層を掘り進んだ跡です。長さ数ミリほどの、少し盛り上がった灰色がかった線として見えますが、肉眼では見つけにくいことも少なくありません。
疥癬と間違いやすい他の皮膚の病気
疥癬の症状は、アトピー性皮膚炎や虫刺され、あせも、じんましんなど、他の多くの皮膚疾患と似ています。自己判断で市販のステロイド薬などを塗ってしまうと、かえって疥癬を悪化させることもあるため、専門医による正確な診断が不可欠です。
なぜ?疥癬が市販薬や自然治癒で治せない科学的理由
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疥癬の原因であるヒゼンダニは皮膚の角質層に潜り込んで増殖するため、表面に塗る市販薬では届かず、生命力も強いため自然治癒はしません。
「どうして市販薬ではダメなの?」そう疑問に思うのは当然です。その理由は、疥癬の原因であるヒゼンダニというダニの厄介な生態にあります。
理由1:原因のヒゼンダニは皮膚の「中」にいる
市販のかゆみ止めや保湿剤は、あくまで皮膚の「表面」に作用するものです。しかし、疥癬の原因であるヒゼンダニは、皮膚の表面から角質層の中へと潜り込み、そこで卵を産んで繁殖します。
皮膚はいくつかの層でできており、市販薬は表面の「表皮」にしか作用しません。しかし、疥癬の原因であるヒゼンダニは、その下の「角質層」に潜り込んでいるため、薬がダニのいる場所に届かないのです。
理由2:処方薬でなければダニを駆除できない
ヒゼンダニを駆除するには、殺ダニ作用のある専用の医療用医薬品が必要です。これらの薬は、医師の診断と処方に基づいてのみ使用できます。現在、日本で保険適用となっている疥癬の治療薬は、飲み薬と塗り薬の2種類です。
理由3:放置すると重症化し、周りの人にうつすリスク大
ヒゼンダニは非常に強い生命力と繁殖力を持ち、自然にいなくなることはありません。放置すれば、ダニは増え続け、かゆみはますます悪化します。
そして、日本皮膚科学会の疥癬診療ガイドラインでも、診断と治療は医療機関で行うことが強く推奨されています[1]。なぜなら、治療が遅れるほど、寝具や衣類を介して、あるいは肌の接触によって、家族やパートナーに感染を広げてしまう可能性が飛躍的に高まるからです。
【治療の全体像】皮膚科で行う疥癬の正しい治し方
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治療の基本は、処方される「飲み薬」または「塗り薬」です。医師の指示通りに使い、同居者も同時に治療することが完治への最短ルートです。
皮膚科を受診すれば、疥癬は決して怖い病気ではありません。ここでは、標準的な治療の流れを具体的に解説します。
Step1:まずは皮膚科で確定診断を受ける(顕微鏡検査)
問診と視診の後、多くの場合、皮膚からごくわずかな角質を採取し、顕微鏡でダニや卵の有無を確認する検査を行います。痛みはほとんどなく、数分で終わります。この検査によって、他の皮膚病と明確に区別し、確定診断を下すことができます。
Step2:処方薬による治療を開始する(飲み薬 vs 塗り薬)
診断が確定したら、いよいよ治療開始です。主に使われるのは以下の2種類の保険適用の薬で、どちらを使うかは症状や状況によって医師が判断します。
疥癬治療薬の比較
項目 | 飲み薬(イベルメクチン) | 塗り薬(フェノトリン) |
---|---|---|
特徴 | 内服することで、体の内側から血流に乗ってダニを駆除する。 | 首から下の全身に塗布し、皮膚の外側からダニを駆除する。 |
使い方 | 空腹時に1回内服。通常、1週間後にもう一度内服する。 | 入浴後、首から下の全身にくまなく塗布。翌日または翌々日に洗い流す。これを1週間ごとに繰り返す。 |
メリット | 塗る手間がかからない。塗り残しの心配がない。 | 乳幼児や妊婦にも比較的安全に使える場合がある。 |
デメリット | 肝機能障害などの副作用の可能性がある。妊婦や小さい子どもには使えない。 | 全身に塗る手間と時間がかかる。塗り残しがあると効果が不十分になる。 |
保険適用 | あり | あり |
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治るまでの期間は?治療のゴールと注意点
薬を使えば、ヒゼンダニは比較的速やかに駆除されます。しかし、ダニの死骸やフンに対するアレルギー反応として、治療後もかゆみが1ヶ月ほど続くことがあります。これは「治っていない」わけではないので、自己判断で薬を中止せず、医師の指示に従うことが重要です。かゆみがつらい場合は、かゆみを抑える別の薬が処方されます。
治療費はどのくらい?保険適用の費用目安
疥癬の治療はすべて保険適用です。3割負担の場合、初診料・検査料・薬剤費などを合わせても、おおよそ3,000円〜5,000円程度が目安となります(薬の種類や量によって変動します)。
家族やパートナーにうつさない!今日からできる感染対策
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同居者は症状がなくても検査・治療を。寝具や衣類は毎日交換し、50℃以上の熱で10分以上処理するか、乾燥機にかけるのが有効です。
疥癬治療で薬と同じくらい重要なのが、再感染や周囲への感染を防ぐための対策です。
最も重要なのは「同居している人全員」で治療すること
疥癬は、症状が出ていない潜伏期間でも感染する可能性があります。そのため、同居している家族やパートナーは、症状がなくても同時に検査・治療を受けるのが原則です。これを徹底しないと、お互いにうつし合う「ピンポン感染」を繰り返してしまいます。
身の回りのもの(衣類・寝具)の正しい洗濯・消毒方法
ヒゼンダニは人の肌から離れると長くは生きられませんが、念のため以下の対策を行いましょう。
- 直接肌に触れたシーツ、布団カバー、下着、パジャマは毎日交換する。
- 洗濯する際は、50℃以上のお湯に10分以上つけてから洗濯機を回すか、洗濯後に高温設定の乾燥機にかけると効果的です。
- すぐに洗濯できないものは、大きなビニール袋に入れて密封し、2週間ほど放置すれば安全です。
掃除はどうする?部屋のダニ対策
通常の掃除機がけで十分です。カーペットなどに落ちたダニが心配な場合は、丁寧に掃除機をかけましょう。殺虫剤を部屋に撒く必要はありません。
疥癬(かいせん)に関するよくある質問(FAQ)
疥癬の潜伏期間はどのくらいですか?
初めて感染した場合、症状が出るまでの潜伏期間は長く、約1〜2ヶ月です。そのため、症状がないからといって安心はできません。過去に感染したことがある場合は、数日で症状が出ることがあります。
主な感染経路はなんですか?
主に、長時間にわたって肌と肌が直接触れることで感染します。性的接触も重要な感染経路の一つです。また、寝具や衣類などを共有することによる間接的な感染もありますが、頻度は高くありません。
治療が終わったのに、まだかゆいのはなぜですか?
これは、ダニの死骸やフンに対するアレルギー反応が残っているためで、異常なことではありません。このかゆみは「治癒後掻痒(ちゆごそうよう)」と呼ばれ、1ヶ月ほど続くこともありますが、徐々に軽快していきますので安心してください。
角化型疥癬とはなんですか?普通の疥癬とどう違うのですか?
角化型疥癬は、通常の疥癬と異なり、免疫力が低下している方に発症することがあります。ダニの数が数百万匹にも増殖し、かさぶたのような厚い角質ができます。感染力が非常に強く、特別な治療と厳重な感染対策が必要になります。
まとめ:そのかゆみ、一人で悩まず専門医に相談を
この記事では、疥癬は自力で治すのが難しく、皮膚科での専門的な治療が必要な理由と、その具体的な方法を解説しました。
【重要ポイントの再確認】
- 夜間の激しいかゆみと特徴的な発疹は疥癬のサイン
- 市販薬や自然治癒は効果がなく、感染拡大のリスクがある
- 皮膚科の飲み薬・塗り薬による治療で、必ず完治できる
あなたのそのつらいかゆみは、正しい治療で必ず終わりが来ます。
何より、あなたの大切な人を守るためにも、どうか一人で悩まず、今日、皮膚科を受診する一歩を踏み出してください。
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[免責事項]
本記事は、疥癬に関する情報提供を目的としており、医師の診断に代わるものではありません。皮膚の異常を感じた場合は、必ずお近くの医療機関を受診してください。
[参考文献]
[1] 日本皮膚科学会, 疥癬診療ガイドライン(第3版), 2015.
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