食欲抑制サプリの安全神話は崩壊。紅麹問題後に専門家が教える安全性の見分け方

（この記事は、消費生活科学アドバイザー／博士（公衆衛生学）の高橋 健介が監修しています。）

（本記事は健康食品の危険性について解説するものであり、特定の病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。体調に異変を感じた場合は、速やかに医療機関を受診してください。）

「安全な食欲抑制サプリ」は、残念ながら存在しません。しかし、製品の安全性をご自身で見抜く科学的な方法は存在します。紅麹サプリ問題は、国の審査がない「機能性表示食品」の危うさを露呈しました。この記事では、危険な製品を避け、本当に信頼できる情報源（HFNet）を使って自分の健康を守るための具体的なステップを、専門家の視点から徹底解説します。

この記事でわかること

1. なぜ「飲むだけで痩せる」サプリが危険なのか、その科学的根拠
2. 「紅麹問題」の本質と、「機能性表示食品」が安全とは限らない理由
3. 広告に頼らず、安全性を自分でチェックできる公的ツール「HFNet」の使い方

なぜ今、食欲抑制サプリの安全性が問われているのか？-「紅麹問題」が暴いた現実

👉 このパートをまとめると！
紅麹サプリ問題の本質は、国の安全審査がない「機能性表示食品」制度の構造的欠陥にあります。企業の自己責任に委ねられた安全管理が、大規模な健康被害を招きました。

あなたが不安なのは当然です。紅麹問題は「起こるべくして起きた」事件

最近の紅麹サプリによる健康被害のニュースを見て、「自分が飲んでいるサプリは大丈夫だろうか」と不安に感じている方は、決して少なくないでしょう。その不安は、ごく自然なものです。そして、この問題の本質は、単なる一企業の不祥事ではありません。

✍️ 筆者（専門家）の経験からの一言アドバイス

【結論】: 「機能性表示食品だから安心」という考えは、今すぐ捨ててください。この制度には、企業が健康被害の報告を怠った場合に、被害の拡大を防ぐ有効な仕組みがなかったのです。

実は、私自身も過去に消費者庁の検討会で、この制度の致命的な欠陥を指摘してきました。あの事件は、企業の倫理観だけに国民の健康を委ねることの危うさを、社会全体に突き付けた「起こるべくして起きた」事件だったと言えるでしょう。

この事件は、製品の安全性を事業者の「自己責任」に委ねることの限界を、私たちに明確に示しました。

「機能性表示食品だから安心」が最も危険な誤解である理由

ドラッグストアなどでよく見かける「機能性表示食品」の表示。これを国の「お墨付き」だと考えているなら、それは非常に危険な誤解です。

消費者庁の定義によれば、機能性表示食品とは、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。 これはつまり、特定保健用食品（トクホ）とは異なり、国が市場に出る前に製品の安全性や有効性を個別に審査したものではない、ということを意味します。

安全性の担保は、完全に製造・販売する企業任せ。
この事実こそが、紅麹問題のような大規模な健康被害が発生した背景にある、制度そのものの構造的な問題点なのです。

「飲むだけで痩せる」の罠。本当に怖い違法成分と健康被害の実態

👉 このパートをまとめると！
劇的な効果を謳うサプリには、肝障害や死亡例もある違法な医薬品成分（シブトラミン等）が含まれる危険性が極めて高いです。安易な期待が、深刻な健康被害に繋がります。

医師が断言。「魔法の薬はない」と言い切れる科学的根拠

「食事制限なしで、運動なしで、飲むだけで痩せる」— このような魅力的な宣伝文句を、あなたも一度は目にしたことがあるかもしれません。しかし、専門家の立場から断言します。そんな魔法の薬は存在しません。

✍️ 筆者（専門家）の経験からの一言アドバイス

【結論】: 「飲むだけで痩せる」と謳う製品の相談を数えきれないほど受けてきましたが、その結論は常に同じです。劇的な効果を謳う製品ほど、未承認の医薬品成分が違法に含まれているリスクが極めて高いのです。

実は、私自身も過去に、SNSで人気の海外製ダイエットサプリを摂取した方が、深刻な肝障害で入院したケースの調査に関わったことがあります。厚生労働省の発表によれば、このような製品からは日本では禁止されている食欲抑制剤「シブトラミン」などが検出されることがあり、死亡例も報告されています。 これは決して稀な例ではないのです。

人の体重は、「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」のバランスで決まります。この原則を無視して劇的な効果を謳う製品は、科学的にあり得ない約束をしているか、あるいは、その裏に隠された大きなリスクが存在するかのどちらかなのです。

あなたが手に取るその製品は大丈夫？実際に報告された健康被害

言葉だけの警告では、その危険性は十分に伝わらないかもしれません。以下は、実際にダイエットを目的とした健康食品で報告されてきた健康被害と、その原因となった違法含有物の一例です。

表: ダイエット関連健康食品で報告された健康被害と違法含有物

出典：厚生労働省、東京都健康安全研究センター等の報告を基に作成

このように、安易な期待が、下痢や腹痛といった症状だけでなく、取り返しのつかない深刻な健康被害に繋がる可能性があるという現実を、どうか直視してください。

トクホとは何が違う？国の食品制度「3つの分類」を知ることが第一歩

👉 このパートをまとめると！
健康効果を謳う食品は、国の審査が厳しい順に「トクホ＞栄養機能食品＞機能性表示食品」と分類されます。この規制レベルの違いを知ることが、リスク判断の基本です。

【比較表】安全性レベルが一目瞭然。トクホ・栄養機能食品・機能性表示食品

「一体何が違うの？」と混乱してしまうのも無理はありません。健康への効果を謳うことができる食品は、主に3つのカテゴリーに分類されており、それぞれ国の関与の度合い、つまり信頼性が全く異なります。

この違いを理解することが、危険な製品を避けるための第一歩となります。

表: 保健機能食品制度の比較

出典：消費者庁「健康食品のリスクコミュニケーション（意見交換会）説明資料」を基に作成

ご覧の通り、国の厳格な審査を経て許可された「トクホ」が最も信頼性が高いのに対し、「機能性表示食品」は国の安全審査がないという点で、両者には天と地ほどの差があるのです。

なぜ、こんなに複雑に？規制緩和が生んだ「企業の自己責任」という名の野放し

では、なぜこのように分かりにくく、消費者にとってリスクの高い制度が生まれたのでしょうか。

背景にあるのは、2015年のアベノミクス成長戦略の一環として行われた「規制緩和」です。企業の市場参入を容易にし、経済を活性化させるという目的のために、国が安全性を審査するゲートキーパーとしての役割を意図的に放棄し、事業者の「自己責任」に委ねる「機能性表示食品」制度が導入されました。

その結果、市場は爆発的に拡大しましたが、その裏側で、消費者の安全を守る仕組みは脆弱なまま放置されてしまったのです。

専門家が実践する安全性の見分け方。公的ツール「HFNet」活用術

👉 このパートをまとめると！
広告や口コミは無視し、国立健康・栄養研究所の無料データベース「HFNet」で成分名を検索しましょう。科学的根拠に基づく有効性や危険性の情報が、誰でも確認できます。

では、私たちは一体何を信じれば良いのでしょうか。答えは、企業の広告やインフルエンサーの口コミの中にはありません。幸いなことに、私たちには科学的根拠に基づいて安全性を自分自身でチェックするための、強力な公的ツールがあります。

STEP1: パッケージ裏面の「原材料名」を確認する

まず、気になる製品を手に取ったら、パッケージの裏側にある「原材料名」を見てください。そこには、その製品に含まれる全ての成分が記載されています。

特に「食欲抑制」や「ダイエット」を謳う製品には、ガルシニア・カンボジア、ギムネマ・シルベスタ、白インゲン豆抽出物といった成分がよく使われています。まずは、主成分と思われる名前をチェックしましょう。

STEP2: 国立健康・栄養研究所の「HFNet」にアクセスする

次に、スマートフォンやパソコンで、国立健康・栄養研究所が運営する「『健康食品』の安全性・有効性情報」、通称「HFNet」にアクセスします。

国立健康・栄養研究所が運営するHFNetは、特定の製品を推奨したり、否定したりするためではなく、健康食品の成分に関する正確な情報を国民に提供し、健康被害を未然に防ぐことを目的とした、中立的な公共のデータベースです。

STEP3: 成分名で検索し「有効性」「危険性」の情報をチェックする

HFNetのサイトにある検索窓に、先ほど確認した成分名（例：ガルシニア）を入力して検索します。すると、その成分に関する世界中の科学論文から集められた、「有効性」と「危険性」に関する情報が表示されます。

例えば、ガルシニア・カンボジアについて調べてみると、「有効性」の項目では『ヒトでの効果は限定的』といった記述から、広告が謳うほどの効果は期待できないことが分かります。

さらに重要なのが「危険性」の項目で、『肝障害の報告あり』という情報に加え、『医薬品との相互作用』として、例えば血液をサラサラにする薬（ワルファリン）の効果を弱めてしまう、といった情報まで確認できます。

このように、企業の広告では決して語られることのない、科学的な事実をご自身の目で直接確認することができるのです。

もう一つの判断基準「GMP認証マーク」とは？

製品の品質が適切に管理されているかを知るための、もう一つの重要な手がかりが「GMP（Good Manufacturing Practice）認証マーク」です。

これは、原材料の受け入れから製造、出荷までの全工程において、製品が「安全」に作られ、「一定の品質」が保たれるようにするための、医薬品レベルの製造工程管理基準です。

紅麹問題を受けて、今後は機能性表示食品（特に錠剤・カプセル状のもの）に対してもGMPに準拠した製造管理が義務付けられる方向で議論が進んでいます。 このマークの有無は、企業の品質管理に対する姿勢を知る上での、一つの分かりやすい目安となるでしょう。

あなたも信じてない？サプリにまつわる「5つの危険な神話」

👉 このパートをまとめると！
「天然由来＝安全」「店頭販売＝国が確認済み」などは、企業の販売戦略が生んだ危険な神話です。科学的根拠に基づき、これらの誤解を一つずつ解体していきましょう。

私たちの周りには、いつの間にか「常識」として広まっている、しかし根本的に間違った健康食品に関する「神話」が溢れています。これらの誤解が、危険な製品へとあなたを導いてしまう可能性があります。

• 神話1：「天然・食品由来だから安全」
  これは最も危険な誤解です。食品安全委員会は「『食品』であっても安全とは限らない」と明確に警告しています。 天然の植物でも、濃縮したり長期間摂取したりすれば毒性を示すことはあります。
• 神話2：「お店で売っているから国が安全性を確認している」
  これも全くの誤りです。前述の通り、特に機能性表示食品は、国が市場に出る前に安全性を一切審査していません。
• 神話3：「多く飲めば、より効果がある」
  推奨量を超えた摂取は、効果を高めるどころか、特定の成分の過剰摂取となり、健康被害のリスクを劇的に高めるだけです。
• 神話4：「友人に効果があったから、自分にも効くはず」
  サプリメントへの反応は、遺伝的背景や生活習慣などにより、個人差が非常に大きいものです。他人の成功体験は、あなたの安全を保証するものではありません。
• 神話5：「広告の『脂肪を燃焼』は本当だ」
  「脂肪を燃焼」「運動なしで痩せる」といった表現は、多くの場合、景品表示法で禁じられている誇大広告にあたります。消費者庁は、こうした不当表示を行った企業に対し、繰り返し措置命令を出しています。

食欲抑制サプリに関するQ&A

専門家として、食欲抑制サプリに関するよくあるご質問にお答えします。

Q1. ドラッグストアで買える漢方薬なら安全ですか？

A1. 漢方薬は医薬品であり、サプリメントとは異なりますが、「漢方＝100%安全」ではありません。体質に合わなければ副作用（例：偽アルドステロン症、肝機能障害など）が起こる可能性はあります。必ず薬剤師に相談の上、用法・用量を守って正しく使用してください。

Q2. 医療機関で処方される「サノレックス」とは何が違うのですか？

A2. サノレックスは、医師の診断と処方が必要な「医療用医薬品」です。厳しい基準のもとで有効性と安全性が確認されていますが、それでも副作用のリスクがあり、厳格な管理下で使用されます。国の審査すらないサプリメントとは、安全性の担保レベルが全く異なります。

Q3. iHerbなどの個人輸入サプリが安いのはなぜですか？危険性は？

A3. 個人輸入される海外製品は、日本の法律（薬機法）に基づく品質・安全性の保証がありません。日本では禁止されている成分が含まれていたり、衛生管理がずさんな工場で作られていたりするリスクがあります。健康被害が起きても、公的な救済制度の対象外となるため、極めてハイリスクな選択と言えます。

あわせて読みたい：iHerb（アイハーブ）のサプリは危険？安全な選び方を専門家が解説【個人輸入のリスクと注意点】

Q4. 結局、一番安全で効果的な食欲を抑える方法は何ですか？

A4. 結論として、最も安全で効果的な方法は、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠といった、生活習慣そのものを見直すことです。特定の食品（例：食物繊維が豊富な野菜や海藻類）を食事に取り入れることは有効ですが、安易にサプリのような「魔法の弾丸」に頼るべきではありません。

まとめ：自分の健康を守るために、明日からできる3つのこと

「楽して痩せたい」という気持ちの先に、安全な道はありませんでした。しかし、絶望する必要はありません。この記事で手に入れた知識は、あなたを危険な製品から守り、生涯にわたって自分の健康を管理するための羅針盤となるはずです。

最後に、あなたの健康を守るために、明日からできる具体的な3つの行動を提案します。

1. 「HFNet」をブックマークし、購入前に必ず調べる習慣をつける。
   企業の広告ではなく、科学的根拠を信じる。この小さな習慣が、あなたを最大の危機から救います。
2. 消費者庁が推奨する「健康食品手帳」をつけ、何をいつから摂取し、体調に変化はなかったか記録する。
   万が一、体調に異変が起きた際に、原因を特定し、医師に正確な情報を伝えるための重要な記録となります。
3. 安易にサプリに頼らず、不調や悩みは医師・薬剤師・管理栄養士に相談する。
   あなたの健康を本当に考えてくれるのは、製品の販売者ではなく、あなたの隣にいる医療の専門家です。

「魔法の弾丸」を探す旅は、今日で終わりにしましょう。そして、あなた自身の力で、賢く、そして安全に、健康をマネジメントする新しい一歩を踏み出してください。

参考文献

• 注意が必要な原料・成分など – 東京都健康安全研究センター, 2025年8月5日アクセス
• 市民公開講座「健康食品との付き合い方」 – 流山市医師会, 2025年8月5日アクセス
• 医薬品成分（シブトラミン及び類似成分、フェンフルラミン）が検出されたいわゆる健康食品について – 厚生労働省, 2025年8月5日アクセス
• 紅麹問題、機能性表示食品制度の見直しが必要 – 週刊金曜日, 2025年8月5日アクセス
• 「健康食品」に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について – 消費者庁, 2025年8月5日アクセス
• 第4回 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ – 食品安全委員会, 2025年8月5日アクセス
• 【紅麹問題】機能性表示食品の法改正において製造事業者がすべき対応は？ – フードガイドサービス, 2025年8月5日アクセス
• 健康食品のリスクコミュニケーション（意見交換会）説明資料 – 消費者庁, 2025年8月5日アクセス
• 「食事制限・運動なしでやせる」はありえない – 糖尿病ネットワーク, 2025年8月5日アクセス
• 「健康食品」の安全性・有効性情報 – 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所, 2025年8月5日アクセス
• ガルシニア抽出物を継続的に摂取する健康食品に関する情報提供について – 厚生労働省, 2025年8月5日アクセス