【医師監修】かゆみ止めが効かない全身のかゆみ｜原因と保険適用の最新治療を専門医が解説

【監修者情報】
順天堂大学医学部附属順天堂医院 皮膚科 准教授
高橋 健介 医師
（詳細プロフィールへのリンク）

その治らない全身のかゆみ、市販薬が効かないのは当然かもしれません。原因はアレルギーではなく、内臓疾患のサインや、IL-31など全く別の物質が引き起こしている可能性が高いからです。現在では、原因を直接叩く保険適用の新しい治療選択肢があります。

この記事を読めば、以下の点が明確になります。

• なぜ、あなたの全身のかゆみにかゆみ止め（抗ヒスタミン薬）が効かないのか、その科学的な理由
• かゆみの裏に隠れている可能性のある内臓の病気と、それを見つけるための検査
• 保険が使える光線療法や、最新の注射薬・飲み薬といった専門的な治療法のすべて

そのかゆみ、普通じゃないかも？「かゆみ止めが効かない全身のかゆみ」に悩むあなたへ

👉 このパートをまとめると！
長引くかゆみは心身を疲弊させQOLを著しく低下させます。「薬が効かない」という事実は、治療の失敗ではなく、正しい原因を見つけるための最も重要なサインです。

「夜、布団に入ると猛烈なかゆみで目が覚めてしまい、朝までほとんど眠れない…」
「仕事に集中したくても、体の内側から湧き上がるようなかゆみで何も手につかない…」

あなたも今、そんな出口の見えない苦しみの中にいるのではないでしょうか。長期間にわたる強いかゆみは、単なる不快な症状ではありません。厚生労働省の研究班が関連する調査では、労働者の労働能力が39%も障害されるというデータもあるほど、私たちの生活の質（QOL）を根底から揺るがす深刻な問題なのです。

【原因】なぜ、あなたのかゆみに抗ヒスタミン薬は効かないのか？

👉 このパートをまとめると！
かゆみの原因は、蕁麻疹などを起こす「ヒスタミン」だけではないからです。アトピー性皮膚炎や内臓疾患のかゆみは、IL-31など別の物質が神経を直接刺激しています。

多くの人が「かゆみ」と聞くと、アレルギー反応の原因物質である「ヒスタミン」を思い浮かべるでしょう。そして、それを抑えるのが「抗ヒスタミン薬」です。確かに、蕁麻疹のような典型的なアレルギー症状には、この薬がよく効きます。

しかし、医学の世界では近年、かゆみのメカニズム研究が大きく進歩しました。

順天堂大学の研究で明らかになったように、アトピー性皮膚炎や内臓疾患に伴う難治性のかゆみの多くは、「非ヒスタミン性経路」で生じることが分かってきたのです。これが、「抗ヒスタミン薬が効かない」という現象の根本的な理由です。

具体的には、以下のような物質が関与しています。

• 具体例①：アトピー性皮膚炎のかゆみを引き起こす「IL-31」
  アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、「IL-31（インターロイキン31）」というサイトカインが過剰に作られています。このIL-31は、かゆみを感じる知覚神経に直接作用し、強いかゆみを引き起こします。ヒスタミンとは全く別の”かゆみ回路”を刺激しているため、抗ヒスタミン薬ではこのかゆみを十分に抑えることができないのです。
• 具体例②：透析や肝臓の病気で起こる「オピオイドシステムの不均衡」
  私たちの体内には、モルヒネのように働く「オピオイド」という物質があり、かゆみを促進するμ（ミュー）受容体と、逆にかゆみを抑制するκ（カッパ）受容体のバランスを保っています。しかし、血液透析を受けている方や一部の肝疾患の患者さんではこのバランスが崩れ、抑制系のκ受容体の働きが弱くなってしまいます。その結果、頑固なかゆみが生じるのです。

全身のかゆみは内臓疾患のサイン？考えられる5つの病気

👉 このパートをまとめると！
腎不全、肝疾患、糖尿病、血液の病気、さらには悪性腫瘍など、皮膚ではなく内臓の病気が原因で、全身にかゆみが現れることが、診療ガイドラインでも指摘されています。

「ただのかゆみ」と自己判断してしまうことには、大きなリスクが伴います。日本皮膚科学会が策定した「皮膚瘙痒症診療ガイドライン 2020」では、明らかな発疹がないのに全身にかゆみが続く場合、背景に以下のような全身性の病気が隠れていないか、体系的に調べることが強く推奨されています。

1. 腎臓の病気（慢性腎不全、透析など）
   老廃物を排出する腎臓の機能が低下すると、かゆみを引き起こす物質が体内に蓄積します。特に血液透析を受けている患者さんのかゆみは深刻な問題です。
2. 肝臓の病気（胆汁うっ滞など）
   肝臓の機能が低下し、胆汁の流れが悪くなると、胆汁中の成分が血液中に逆流し、皮膚の神経を刺激してかゆみを引き起こすことがあります。
3. 内分泌・代謝の病気（糖尿病、甲状腺疾患など）
   糖尿病による神経障害や、甲状腺機能の異常（亢進症・低下症）が、皮膚の乾燥や発汗異常を招き、かゆみの原因となることがあります。
4. 血液の病気（鉄欠乏性貧血、真性多血症など）
   鉄欠乏性貧血では、皮膚の栄養状態が悪化してかゆみが出ることがあります。また、赤血球が異常に増える真性多血症では、入浴後にかゆみが強くなるという特徴的な症状が見られます。
5. 悪性腫瘍（悪性リンパ腫など）
   頻度は高くありませんが、ホジキンリンパ腫などの血液のがんが、かゆみを引き起こすサイトカインを産生し、全身の頑固なかゆみとして現れることがあります。

まず何科へ？正しい診断を受けるための3つのステップ

👉 このパートをまとめると！
まずは皮膚科を受診してください。その際、使っている薬と「効かない」事実を正確に伝え、背景疾患を調べるための血液検査などを相談することが重要です。

原因のわからないかゆみに悩んだら、自己判断で様子を見るのではなく、以下のステップで専門医に相談しましょう。

1. Step1：専門医（皮膚科）を受診する
   まずは、皮膚症状の専門家である皮膚科を受診するのが第一選択です。必要に応じて、内科など他の診療科と連携して原因を探ってくれます。
2. Step2：問診で必ず伝えるべき3つのこと
   正確な診断のため、医師に以下の情報を具体的に伝えてください。
   • いつからかゆいのか
   • どんな時に、どんなかゆみか（例：夜、チクチクする、ムズムズするなど）
   • これまで使った薬と、それが効かなかったという事実
3. Step3：ガイドラインで推奨される検査
   問診と視診の結果、内臓疾患などが疑われる場合、医師はガイドラインに基づき、原因を特定するための検査を検討します。具体的には、肝機能や腎機能、血糖値、甲状腺ホルモンなどを調べる血液検査や、尿検査、必要に応じて胸部X線などの画像検査が行われます。

【治療法】保険適用される最新治療のすべて

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スキンケアが全ての基本です。その上で、週1〜2回の通院で可能な「光線療法」や、かゆみの原因物質を直接狙う新しい注射薬・飲み薬（分子標的薬）があります。

原因に応じた治療が重要ですが、どのようなかゆみであっても、基本となる治療から専門的な治療まで、様々な選択肢があります。

治療の土台：医師が教える正しいスキンケアと生活習慣

なぜスキンケアがそれほど重要なのでしょうか。それは、多くの方が無意識に陥っている「かゆみの悪循環」を断ち切るためです。

この悪循環を止めるため、体を洗うときはナイロンタオルでゴシゴシこすらず、よく泡立てた洗浄剤で優しく手で洗いましょう。お風呂のお湯は熱すぎない38〜39℃程度にし、入浴後は5分以内に保湿剤を全身に塗ることが極めて重要です。

専門的な治療①：過剰な免疫反応を抑える「光線療法（紫外線療法）」

アトピー性皮膚炎や痒疹など、炎症を伴う難治性のかゆみに対して有効なのが光線療法です。これは、特定の波長の紫外線（主にナローバンドUVB）を皮膚に照射することで、皮膚の過剰な免疫反応を抑え、かゆみを伝える神経の異常を正常化させる治療法です。週に1〜2回の通院が必要ですが、保険適用となっています。

専門的な治療②：原因を狙い撃つ新しい飲み薬・注射薬

近年、かゆみのメカニズム解明に基づき、原因物質をピンポイントで抑える新しい薬が次々と登場し、保険適用となっています。

表: 保険適用される主な新規掻痒症治療薬

これらの薬は、従来の治療で効果が不十分だった患者さんの苦痛を、根本から大きく改善する可能性を秘めています。

「かゆみ止めが効かない」に関する、よくあるご質問

Q. ストレスが原因でかゆみ止めが効かないことはありますか？
A. はい、関係あります。ストレスは、かゆみを感じる神経を過敏にさせ、症状を悪化させる重要な要因です。しかし、ストレスが直接の原因というよりは、元々ある皮膚疾患や内臓疾患のかゆみを増悪させているケースが多いと考えられます。

Q. 高齢者で、特に夜にかゆみがひどいのはなぜですか？
A. 高齢者の場合、加齢による皮膚の乾燥（乾皮症）が大きな原因です。しかし、それだけで説明がつかない頑固なかゆみの場合は、腎臓や肝臓の機能低下といった、内臓の病気が隠れている可能性も考慮する必要があります。

Q. ステロイドを使い続けても大丈夫でしょうか？
A. 医師の指導のもと、適切な強さのステロイド外用薬を、必要な期間、適量使用する限り、安全性は高い薬です。自己判断で中止したり、逆に不必要に長期間使い続けたりすることが問題となります。必ず主治医の指示に従ってください。

Q. 急に全身がかゆくなった場合も同じですか？
A. 急激に現れたかゆみは、蕁麻疹や薬剤、食物アレルギーなどの可能性も考えられます。しかし、症状が数週間以上続く場合は、この記事で解説したような慢性的なかゆみと同じ原因が隠れている可能性もありますので、一度皮膚科を受診することをお勧めします。

まとめ：そのかゆみ、諦めないで。正しい診断が解決の第一歩です

長年のかゆみ、本当にお辛いことと思います。しかし、これまでの話をまとめると、希望が見えてくるはずです。

1. かゆみ止めが効かないのは、ヒスタミン以外の物質（IL-31など）が原因の可能性が高い。
2. 背景に内臓疾患が隠れていることがあるため、まずは皮膚科でガイドラインに沿った検査を。
3. スキンケアに加え、光線療法や原因を直接叩く新薬など、保険適用の治療法がある。

【CTA（行動喚起）】
「薬が効かない」という貴重な情報と、この記事の比較表（可能なら印刷して）を持って、お近くの皮膚科専門医にご相談ください。専門医であれば、これらの新しい治療選択肢について必ず理解してくれます。それが、長年の苦しみから解放されるための、最も確実で、最も重要な第一歩です。

参考文献

• 日本皮膚科学会ガイドライン, 皮膚瘙痒症診療ガイドライン 2020
• 順天堂大学, グッドヘルス・ジャーナル
• 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構, ミチーガ皮下注用60mgシリンジ
• 厚生労働省, アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針
• 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構, ノピコールカプセル2.5μg 審議結果報告書
• 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構, コルスバ®静注透析用シリンジ25μg/50μg インタビューフォーム

【免責事項】
本記事は、情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個別の症状については、必ず専門の医療機関にご相談ください。 (最終更新日: 2025年7月31日)