皮膚の下に何かいる感じ…正体は？医師が教える原因と危険なサイン、何科へ行くべきか

「皮膚の下で何かが動く、コロコロする…」その不気味な感覚、ご不安ですよね。

その正体は、多くの場合①物理的なしこりか②感覚・神経の異常の2つに大別できます。この記事では、皮膚科専門医である私が、あなたの症状の原因を突き止める手助けをし、危険なサインや、病院へ行くべきかどうかの判断基準まで、分かりやすく解説します。

まずは5分でセルフチェック！あなたの「何かいる感じ」はどのタイプ？

あなたのその違和感は、原因を探る上でまず、大きく2つのタイプに分けることができます。

それは、指で触ると実際に「コロコロ」や「ブヨブヨ」とした塊が確認できるタイプA（しこり）か、触っても何もないのに虫が這うような「ムズムズ」や「ピリピリ」を感じるタイプB（感覚だけ）か、という分類です。

どちらのタイプに近いかを知ることが、不安の正体を突き止めるための最も重要な第一歩となります。

この後のセクションで、ご自身のタイプに合った解説を読み進めてみてください。
ただし、このチェックはあくまでご自身で原因のあたりをつけるための目安です。最終的な診断ではないことを心に留めておいてくださいね。

タイプA: 触れる「しこり」がある場合の原因【粉瘤・脂肪腫など】

フローチャートで「タイプA」に当てはまった方。
その「しこり」の正体として最も頻繁に見られるのが、粉瘤（ふんりゅう）と脂肪腫（しぼうしゅ）という、いずれも良性の皮膚腫瘍です。慌てる必要はありませんが、それぞれの特徴を知っておきましょう。

最も多い原因「粉瘤（アテローム）」とは？

粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物ができ、そこに本来は剥がれ落ちるはずの垢（あか）や皮脂が溜まってしまったものです。

大きさは数ミリの小さなものから、10cmを超えるものまで様々。
特徴としては、しこりの中央に「へそ」と呼ばれる黒い点が見られることがあり、強く圧迫すると臭いを伴うドロドロとした物質が出てくることもあります。

弾力のある塊「脂肪腫」とは？

脂肪腫は、その名の通り皮下脂肪が増殖してできた、良性の腫瘍です。

粉瘤よりも比較的柔らかく、ゴムまりのような弾力があるのが特徴です。皮膚のすぐ下で、数年から十数年という長い時間をかけてゆっくりと大きくなります。痛みなどの症状はほとんどありません。

【比較表】粉瘤・脂肪腫・その他のしこりの違い

しこりを見つけたらやってはいけないこと

もし、しこりを見つけても、ご自身で潰そうとすることは絶対にやめてください。

特に粉瘤の場合、袋が破れて内容物が皮膚の内部に散らばると、細菌に感染して炎症を起こし、赤く腫れ上がって強い痛みを伴うことがあります。
日本皮膚科学会も、粉瘤が自然に消えることはなく、根治のためには手術が必要であると指摘しています。気になる場合は、まず専門医に相談することが大切です。

タイプB: 触っても何もない「感覚だけ」の場合の原因【蟻走感・神経の異常】

フローチャートで「タイプB」に当てはまった方。
触っても何もないのに、皮膚の下で何かが動く、虫が這うような感覚がある…それは「蟻走感（ぎそうかん）」と呼ばれる症状かもしれません。その字の通り、蟻が歩いているような感覚がすることから、この名前がついています。

「蟻走感（ぎそうかん）」とは？なぜ起こるのか

蟻走感は、皮膚そのものではなく、皮膚の感覚を脳に伝える神経のシステムに一時的な誤作動が起きることで生じると考えられています。

実際に虫がいるわけではないので、安心してください。
しかし、なぜそんな奇妙な感覚が起こるのでしょうか。その背景には、私たちの心身の状態が深く関わっています。

最も身近な原因：ストレスと自律神経の乱れ

蟻走感の最も身近な原因として挙げられるのが、ストレス、疲労、睡眠不足などによる自律神経の乱れです。

私たちの体は、緊張状態のときに働く交感神経と、リラックス状態のときに働く副交感神経がバランスを取り合っています。
しかし、強いストレスや不規則な生活が続くとこのバランスが崩れ、神経が過敏になってしまい、何もないのに「ムズムズする」「ピリピリする」といった異常な感覚を生み出してしまうことがあるのです。

自分でできる対処法とセルフケア

もし症状が軽く、ストレスや疲れに心当たりがある場合は、まずは生活を見直してみましょう。

• 睡眠の質を高める： いつもより30分早く寝る、寝る前のスマホを控えるなど
• 体をリラックスさせる： 38〜40℃のぬるめのお風呂に15分以上浸かる
• 神経の働きを助ける食事： ビタミンB群（豚肉、玄米など）やマグネシウム（海藻、ナッツなど）を意識する
• 軽い運動で血行を促す： 15分程度のウォーキングや、寝る前の軽いストレッチ

こうした具体的なセルフケアを試みるだけでも、不快な症状が和らぐことがあります。

【要注意】これらの症状が伴う場合はすぐに病院へ！危険なサイン

これまで解説してきたように、「何かいる感じ」の多くは急を要するものではありません。
しかし、中には病気のサインが隠れていることもあります。以下のような症状が伴う場合は、放置せずに医療機関を受診してください。

ピリピリした痛みを伴う赤い発疹：「帯状疱疹」の可能性

皮膚の違和感やピリピリとした痛みが数日間続いた後、その場所に赤い発疹や水ぶくれが現れた場合、帯状疱疹（たいじょうほうしん）の可能性があります。
これは、体内に潜んでいた水ぼうそうのウイルスが再活性化して起こる病気で、早期の治療が非常に重要です。

しこりが急に大きく、硬くなった：「悪性腫瘍」のまれな可能性

ほとんどのしこりは良性ですが、ごくまれに悪性の腫瘍であることがあります。
「数ヶ月で急に大きくなった」「石のように硬くて動かない」「表面が崩れてジュクジュクしている」といった特徴が見られる場合は、注意が必要です。過度に心配する必要はありませんが、念のため専門医の診察を受けましょう。

手足のしびれを伴う：「糖尿病性ニューロパチー」などの内科的疾患

特に足の裏や指先に「何か一枚噛んでいるような」「砂利の上を歩いているような」感覚や、しびれがある場合、糖尿病の合併症である神経障害（糖尿病性ニューロパチー）の可能性も考えられます。
もし健康診断などで血糖値の高さを指摘されたことがある方は、一度内科で相談してみることをお勧めします。

病院へ行くべき？何科を受診すればいい？

「自分の症状が、病院に行くべきレベルなのかわからない」
「行くとしても、何科に行けばいいの？」
これは、多くの患者さんが抱える悩みです。ここでは、その判断基準を具体的にお伝えします。

受診を検討すべき症状リスト

• 症状が2週間以上ずっと続いている
• 痛みを伴う、またはだんだん痛みが強くなっている
• しこりが急に大きくなってきた
• 日常生活や睡眠が妨げられるほど、症状が気になってしまう

これらのいずれかに当てはまる場合は、一人で悩まず専門医に相談しましょう。

「しこり」があるなら→まずは皮膚科、手術が必要なら形成外科

触ってわかるしこり（タイプA）がある場合は、まず皮膚科を受診して診断をつけてもらうのが一般的です。
そして、粉瘤や脂肪腫などで手術による切除が必要と判断された場合に、形成外科を紹介される、という流れがスムーズです。もちろん、最初から形成外科を受診しても問題ありません。

「感覚だけ」なら→まずは皮膚科へ

触っても何もない感覚だけの症状（タイプB）の場合は、まず皮膚科に相談しましょう。
帯状疱疹など皮膚に原因がある病気でないかを確認します。その上で、ストレスなどが主な原因と考えられる場合は、心療内科や神経内科との連携を提案されることもあります。

医師にうまく伝えるための準備メモ

よくある質問（FAQ）

Q. 本当に寄生虫がいる可能性はありますか？

A. 日本国内での生活において、皮膚の下に寄生虫が侵入する病気は極めてまれです。海外の特定の地域への渡航歴がない限り、その可能性はまず考えなくてよいでしょう。「寄生虫妄想（きせいちゅうもうそう）」という、思い込みから症状が悪化することもあるため、まずは他の原因を探ることが大切です。

Q. ストレスだけで、本当にそんな感覚になりますか？

A. なります。心と体、そして神経は密接に繋がっています。強いストレスは、脳が感覚を処理するシステムに影響を与え、実際に刺激がないにもかかわらず「ムズムズする」といった蟻走感を引き起こすことが医学的にも知られています。決して気のせいではありません。

Q. 子供の皮膚の下にしこりを見つけました。

A. お子さんの場合、頭や顔によくできる「石灰化上皮腫（せっかいかじょうひしゅ）」という硬いしこりの可能性があります。これも良性ですが、気になる場合はまず小児科か皮膚科に相談し、正しい診断を受けてください。

まとめ：不安の正体を知り、適切な一歩を踏み出しましょう

今回は、「皮膚の下に何かいる感じ」という、言葉にしがたい不安な症状について解説しました。

最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。

• 違和感は「しこり」か「感覚だけ」かに大別できる
• 「しこり」の多くは粉瘤や脂肪腫といった良性のできもの
• 「感覚だけ」の場合はストレスによる蟻走感のことが多い
• 強い痛みや発疹など「危険なサイン」が伴う場合はすぐ受診を

あなたのその不安の正体は、この記事を読むことで少し輪郭が見えてきたのではないでしょうか。
それでも症状が続いたり、心配が拭えなかったりする場合は、どうか一人で抱え込まないでください。専門医に相談すること、それがあなたの不安を解消するための、最も確実で、最も正しい一歩です。